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数時間経ち落陽が始まってきた頃…
ケイ 「おらぁ‼︎」
勢いよく何段か積み上げられている木箱に向かって投げ飛ばされるエトーレ
エトーレ 『うわああっ‼︎』
バキッと鈍い音を鳴らして木箱はエトーレを受け止めると バラバラと崩れた 折れた木材の中でうずくまる様子を見たケイは一言
ケイ 「…今日はここまでだな」
そう言い残して立ち去っていった
エトーレ 『……っつ！……ダメか…』
ケイが立ち去っていった後、全身が痛む中ゆっくりと起きあがる すると何処からかエトーレを呼ぶ声が聞こえてくる
シャミラ 「エトーレ？おかしいわね、もう帰っちゃったのかしら？」
エトーレ 『シャミラさん…！』
シャミラ 「エト‼︎だいぶ激しくやられたわね」
近くに駆け寄るとエトーレの打撲によって出来たアザを見ながら心配そうに言った
エトーレ 『このくらい慣れっこですよ』
シャミラ 「そう。とりあえずエト、1日戦ってお腹も空いたでしょう
そこに貴方の仲間も集まっているみたいだし食事を取りに行きましょう」
すっかり日が落ちて暗くなった頃、エトーレとシャミラはレオ達がいるという店に向かっていた
店内からは蜃気楼を表現するような独特な音階の曲に笑い声、そしてその音を包み込むように 美味しそうな料理の香りが漂ってくる 中に入ると1日の疲れを酒に注ぎ洗い流す人や、演奏者達が奏でるリズムと共に歌い踊る人。 ウットリと見つめ合いながら話し合うカップルなどみな思い思いの夜の時間を過ごしている
女店主 「ほらよ！神官様もそんなシケたツラしてないでまずは沢山食べていきな！
腹が空いてたら出せる力も出なくなっちゃうよ！」
アステヌ 「ありがとう。そうだね、先ずは食べないと！
あ、2人ともー！こっちこっち！」
呼ばれた方を見ると少し重い雰囲気になっている仲間たちがいた
エトーレとシャミラは呼ばれた方に向かい席に座る
レオ 「エトーレ、すまないな。お前に全てを背負わせる事になってしまって。」
エトーレ 『いえ！レオさんのせいではないですし、俺がなんとかして見せますよ！』
エトーレとレオはは案内人を通して会話をする
レオ 「そうか、頼りにしてるぞ」
エトーレ 『‼︎はい
…あの、シャーロッテさんは何処で…』
レオ 「ああ、お前と別れた後何人かに別れて別行動をしていたんだ
シャーロッテは俺とチロと案内人の4人といたんだが、少し路地裏を歩いていたら俺とチロが後ろから一撃を
くらって少しの間意識を失っていたらしい
シャーロッテも武器がないせいでほとんど抵抗できずに連れ去られてしまったそうだ」
アステヌ 「本当に申し訳ない…普段は事件も起こらないような通りだから安全な道だと思っていたんだけど入って来た時
から目を付けられてしまっていたんだろう。
舞い人を摑まえる奴らは身分の高い主人に命令されて実行しているから本当は悪い奴らではないはずだけど
必死なんだ。きっと何も成果を持って帰らなければ売り飛ばされて自分達が闘技場に出ないとならなくなるはずだよ。 1週間後は星読みの一族と盛り上げ役として人間が出る。
きっと物好きな奴らや闘技場が好きな連中、更には騒ぎを聞いて興味を持って見にくる奴らが大騒ぎをするだろうよ……」
シャミラ 「私には闘技場の何が良いのか分からないわ…あんなのただの虐殺じゃない
同族が血を流す姿を見て楽しむなんて…気が狂ってる…」
アステヌ 「闘技場は元々この国には無かったんだけど他の国から取り入れられたまだ新しい娯楽施設でね。
先代のファラオが大好きだったんだ。 最近じゃメティコス王も興味を持ちはじめているなんて噂されているよ メティコス王の事を批判している訳ではないけれど、もしそれが本当なら闘技場だけは僕は一生かかっても
理解できないだろうな……
でもメティコス王は先の事も見通されていらっしゃるだろうから何を選んでもこの国にとって良い結果となる事を
僕は信じるよ」
しばらくしてエトーレとシャミラとアステヌはレオ達から少し離れた席で料理を囲んで今までの エトーレの事について話している
アステヌ 「エトーレはさっき1度も勝った事がないって言っていたけど今まではどうしてたの？」
エトーレ 『俺 実は、こうなる前も剣を教わって戦っていたんです。でも何度練習しても全然上手くならなくて
いつも敵と戦う時はみんなに助けて貰うばかりで…
俺、１つ決めている事があるんです。
船に乗る前、母さん達も何処かに行ったまま帰って来なくて、食べるものが何もなくて死にそうだった俺を助けてくれた
レオさんとシャーロッテさんに恩を返すって……
決めたのにこんなんじゃ全然ダメだ…』
シャミラ 「ん～…そうねぇ。それは貴方が私達と同じ獣人族だからよ」
エトーレ 『え？』
シャミラ 「エト、動物が人間と同じように武器を持って戦っているのを見たことがあるのかしら？」
エトーレ 『…無いです』
シャミラ 「なによ、分かってるじゃない。つまりそういう事よ
私達はずっと昔から獲物を狩る時にわざわざ人間が作った武器や道具なんて持たない。だって私達にはもうあるじゃない どんな獲物も噛みちぎる鋭い牙とトドメをさせる立派なこの爪がね」
そう言いながらシャミラはエトーレに真っ白な牙と綺麗に磨かれた爪を見せる
エトーレ 『なるほど…だから今まで剣を上手く扱えなかったのか… そう言われてみるとスプーンとかそういう物も使いにくかったな』 シャミラ 「スプーン？人間の使う道具の名前かしら？」
エトーレ 『はい！スープを飲むときに手に持って掬って飲むんです』
そう言うとシャミラは笑いながら
シャミラ 「なにそれ～面倒くさいわね。道具なんて使わずに舌を使って直接飲めばいいじゃない」
エトーレ 『！ 俺も同じこと思ってました！』
疲れていた顔が少し明るくなるエトーレ
アステヌ 「あはは、本当に人間は不思議な物を使うんだね。獣人族の中にも訓練を積んで人間と同じ武器や道具を扱える特殊な獣人 もいるけど、わざわざ僕ら専用の道具だってあるのに使わないなんて勿体ないよね
あ、そういえば無事に技を教えてもらう事は出来た？」
エトーレ 『いえ…今日会った人に勝たないといけないんですけど、全部かわされちゃって…』
アステヌ 「うん、そうか。なら今日はよく食べてゆっくり休むといい
大丈夫、まだ初日だし明日は上手くいくさ」